かわいらしい子供でありながら、大きく誇張された、絶望的な眼差しの女の子。強く記憶に残る絵です。
今日はアメリカ映画「BIg Eyes」 (ビッグ・アイズ)のご紹介です。
これらの絵のシリーズは、どれも傷みの無いかわいい容貌の子供、そのどれもが子供のあるべき姿とはかけ離れた、悲しげで絶望さえも感じられる極端に大きな目を持ち、まるで何かを訴えかけるようにも見えます。1960年代に一躍人気を博し、絵を用いたポストカードやグリーティングカードは飛ぶように売れ、ナタリー・ウッド、ジョン・クロフォード等の有名人らが競って原画を買い求めたそうで、アンディーウォーホールからも好意的コメントが残されています。
当時この絵を描いた画家は Walter Keane(ウォルター・キーン)とされ、饒舌さを生かし自らメディアに登場、セレブの仲間入りとなり、パーティー三昧の日々。しかし、実際はウオルターは画家でさえも無く、画家である妻の Margaret Keane(マーガレット・キーン)を丸め込み、マーガレットに名乗らせないよう説き伏せ、ゴーストペインターとしてこれらの作品を描き続けさせていました。一日16時間以上も。
誰もがなぜこのような事態になったか気になりますが、その経緯を今回
ティム・バートン(スウィーニー・トッド、シザーハンズ、ビートルジュース、ビッグフィッシュ等で知られる映画監督)が監督し映画化。
現在85歳のマーガレットは、最近のテレビのインタビューで、なぜあのような事態になってしまったのかとの問いに、「(ウォルターから精神的に)ひどく虐待された妻であった」と語っていました。絵の子供達は彼女の分身で、彼女の叫びが感じられるようです。近年やっと一般的に認知されるようになってきた精神的虐待。映画を通してその過程を私たちは知っておかなければならないかもしれません。
「"Big Eyes" and the eye-opening story of Margaret Keane」CBSのインタビュー(インタビュー動画は現在は非公開)
他のインタビュー
Margaret Keane, Painter Behind Tim Burton’s ‘Big Eyes’ | KQED Arts
その他の絵はこちらのマーガレット・キーンのサイトから。
Margaret Keane Gallery - Big Eyes Artwork
当時この大きな目を持つ絵は強烈なインパクトがあり、模倣した商品が幾つも発表されました。
その一つが、
Little Miss No Name(リトル・ミス・ノー・ネーム)
(
もはや物乞い! 右手が恵みを求めている角度です)
アメリカのおもちゃメーカーのHasbro社が、当時圧倒的人気のあったMattel社のバービーのクローンを作るより、新しいコンセプトのお人形で勝負しようとした結果、「ボロの服を着て涙を流して恵みを求めるかわいそうな姿
(要するに物乞い?)」という驚愕なコンセプトのお人形「Little Miss No Name」が発売されました。市場の反応は悪く一年しか売られなかったそうです。
コレクターさん達の写真はこちら なんとFacebookページまで存在するようです
明らかにマーガレットが描いた絵に影響を受けているのが分かりますが、デザインには一切関与していないそうです。
上の写真はアメリカンウェーブで扱ったお人形で、残念ながら「涙」のパーツが無くなっておりました。発売期間が短かったため、私がアメリカンウェーブに居た10年近い間で一度しか見た事が無く、オーナーでさえもほぼ知識の無い人形を、さすがに誰も知らないのではとの予想を裏切り、インターネット経由ですぐに買い手が見つかりました。
Blythe (doll)(ブライス・ドール)
三等身のボディーのにかわいらしい顔、大きな目が特徴です。こちらも以前アメリカンウェーブで一度だけ扱った事があるビンテージのブライスドールです。
何度か調べましたが、これもマーガレットの協力は無く作られたようです
ビッグアイズの絵の流行が終焉した1972年、Kenner社からの発売され、こちらも市場の反応が悪く一年間しか発売されなかったようです。現在、2000年に突如人気が復活し、日本の
タカラがライセンス品を発売中です。
ビッグアイズが影響を与えたと思われず作品は他にもあり
2000年代に放送されたアメリカのアニメ「
パワーパフガールズ(Powerpuff Girls)」
もともと目が大きかった日本の少女マンガも1970年代初期に極端に大きくなりました。
リンク先見てね
マーガレット・キーンを演じるのは、近年アカデミー賞・ゴールデングローブ賞のノミネートの常連エイミー・アダムス。「アメリカンハッスル」、「ザ・ファイター」の演技が記憶に残ります。
ウォ ルター・キーンを演じるのはドイツ人のクリストフ・ウォルツ。クエンティン・タランティーノ監督の『イングロリアス・バスターズ』の狂気的なナチス将校役 でアカデミー賞の助演男優賞を授賞している役者です。クリストフ自身が実力のある役者であるのに加え、本人の癖のある記憶に数々の発言(得体のしれない刺がある感じ)でじわりと人気がでて、アメリカのSNL等のコメディー番組でパロディー化されるほど、アメリカでは一目置かれる役者になっています。(もともとドイツ人は英語の上達が早く、しかも彼は若い頃にアメリカ留学経験済みなんですが、2010年に比べ英語の発音がかなりアメリカ人らしくなっていて、聞き取りとまねる能力が上手いんだなと感心。名優は物まね上手です。メリルストリープも。)
忘れ去られていたアメリカンカルチャーを蘇られてくれた「Big Eyes」(ビッグ・アイズ)。
1960年代〜470年代のファッションやインテリアも、もちろん必見。
沖縄ではシネマパレットで公開中。残念ながら他の地域での公開はほとんど終わってしまいましたので、ブルーレイ、オンラインビデオ、レンタル等でお楽しみ下さい。
(紹介が遅れて、申し訳無いです)
ヒデキ
(元スタッフ)